和田みつひと「仕切り、囲まれ、見つめられる」喜楽亭
喜楽亭(愛知県)は、明治時代後期から続いた料理旅館で、昭和57年に改築あたって寄贈され、現在の場所に復元移築された大正期の代表的な町屋建築である。喜楽亭の庭に面した座敷を三方に取り囲む回廊のガラス戸に、黄色の透明PVCフィルムを貼り、ガラスを透過する黄色の光、障子紙に反射する黄色の色によって、町屋建築の構造を浮かび上がらせた。
色のついた透過性フィルムを付加することで、空間全体を変化させるだけでなく、ガラス越しに見る屋外の景色と外から見る内部の様子の見え方を変えるのです。建築空間と関わりをもちながら日常とは異質な光景を映し出すという点で、日本の障壁画の持つ空間感覚と共通するものと考えます。古い日本の建築に佇み、自身を見つめ、遠い記憶と経験を喚起した。
和田みつひと「仕切り、囲まれ、見つめられる」豊田市美術館
豊田市美術館(愛知県)は、建築家の谷口吉生氏の設計により館内の展示室の大半をガラスで囲い、自然光を採り入れていることが特徴的な建物だ。館内をめぐると展示室と展示室をつなぐ豊田市街を見下ろすガラス張りの通路に出る。この全長約17mの通路のガラス全面にピンクの透明PVCフィルムを貼った。展示室から展示室へ移動するための通路を、ピンクの光と色によって空間を際立たせ、作品空間へと変容させた。
ピンクの光と色による刺激に目が順応すると、通路の出入り口から覗く展示室が緑一色に見えた。これは補色残像という生理現象によるもので、人間の目はひとつの色を見続けると、その補色が見えてくる。同じ色の光を一定時間見続けていると、その色に対する感度が低下してくる。この現象を色順応という。色順応の後で白色の紙を眺めると、順応した色の補色が見える。これが補色残像である。
補色残像は、順応した色の補色が見える現象で、順応後に白色の紙などを注視した場合に生じる。順応とそれにともなう残像現象は、今日では神経生理学的に説明されている。また、残像とはけっして稀にしか生起しない何か特殊な現象ではない。日常生活ではごくありふれた出来事である。
光と色によって建築的な特性を強調し印象付け、観察による実感の伴った経験を喚起させることを試みた。ここで重要となるのは、鑑賞者の意識の変化である。意識の変化とは、日常という絶え間のない変化の中で、私たちが見ているのに見えていないことに気づくことである。