Photo:谷岡康則 Yasunori Tanioka
この展示では、会場となる室内に手前と奥の二部屋に仕切る壁を建てた。そして、窓にカッティングシートを貼り、照明をカラー蛍光灯に換え、室内の壁面・天井に照明と同系色の塗料を塗布し、ピンクに彩られた部屋とグリーンに彩られた部屋を並置してつくり出した。この作品によってつくりだされる光景は、光と色の効果によって普段とは異なる色彩を帯びて見えます。しかし、室内と窓から見える光景は、普段と何ら変わることはありません。ここで試みたのは、展覧会の会場に訪れる人の体験をとおして、目の前にある光景と向き合う場をつくりだすこと。日頃見慣れてしまい気に留めていないものに「気づく」きっかけをつくりだすことです。
私の作品は、対象としての作品を見るということよりも展覧会に接する人の経験と、その経験に伴って起こる意識の変化が重要となります。ここで言う意識の変化とは、外に何かを発見することではありません。何かを探すことや、追い求めたりすることではないのです。日常という絶え間のない変化の中で、私たちが見ているのに見えていないものを見えるようにすること。「もう、ここにある」ことに「気づく」ことに他ならないのです。
初出:『BankART Life』、BankART1929、2005年