和田みつひと 作品 /Mitsuhito Wada works 2003

「[re-place]」 藍画廊(東京)

Photo:谷岡康則 Yasunori Tanioka

[re-place]和田みつひと

 

私は、画廊や美術館、喫茶店で、蛍光色もしくは透明色のシートをその建築物のガラス面に貼る、床や壁面に蛍光色の塗料を塗布するといった操作を加えることによって、場所と強く関わる作品を展開しています。

 

作品の主題は、「気づく」ということです。たとえば、ガラス面に透明色のシートを貼った作品では、シートを透過して見えるいつもと同じ様子でありながら、いつもと違う光景に気づく。蛍光色の塗料を用いた作品では、塗布された建築空間だけでなく蛍光色の色が反射している自分に気づく。普段あまり意識することのない光の存在に気づく。そして、展覧会が終わり元の状態に戻ったとき、ある期間その場所が変わっていたことに気づくということです。ここでは、対象としての作品を見るということよりも展覧会に接する人の経験と、その経験に伴って起こる意識の変化が重要となるのです。私が試みているのは、作品の提示によって意識を変化させる契機を生みだすことなのです。

 

今回の展覧会では、画廊の事務室と展示室、その場所のヒトとモノを入れ替えました。事務室の備品や事務室内に展示されている他の作家の小品を含め、事務室の機能を全て展示室へと移動させました。通常では表に出ない事務室の内部を展示の一部として展示室に設置したのです。また、照明を赤く発光する蛍光灯に換え、外と隔てるガラス戸にはピンク色の透明シートを貼り、元の事務室を含めた全室内をピンク色の光が充満する空間へ変えました。

 

私の作品は、生活の中で何処にでもある素材を用い、日常の生活の中にそれを戻す行為です。すなわち、日常と日常の常態をずらされた場である作品とが共生する場をつくり出すこと。いつもの場所でありながら、いつも見慣れた光景とは違う場所へ変質させることなのです。日常と作品の境界が曖昧に立ち上がる場を作り出すことによって私は、既存の視点に問いかけたい。ただ当たり前にあるわけではない、私たち自身と現在への問いなのです。既に誰かによって作られたかもしれない日常の外側に出る、もしくは敢えて日常の内側に潜り込む瞬間に私たちは、この場所でありこの時である現在そのものを感じ取ることが出来るのです。

 

初出:和田みつひと『[re-place]』リーフレット、2003年